大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和62年(ワ)1843号 判決

原告

山崎巌

右訴訟代理人弁護士

山上和則

豊島哲男

岩﨑任史

被告

株式会社アイ・エス・エフ貿易

右代表者代表取締役

金沢明彦こと金明彦

被告

金沢明彦こと金明彦

右被告両名訴訟代理人弁護士

田中実

右訴訟復代理人弁護士

森恵一

被告

小勝明和

被告

八ツ田和男

右被告両名訴訟代理人弁護士

小原正敏

主文

一  被告らは原告に対し、連帯して金一〇四七万五六八六円及びこれに対し被告株式会社アイ・エス・エフ貿易にあっては昭和六二年三月一九日から、被告金沢明彦こと金明彦にあっては同年同月一一日から、被告小勝明和にあっては同年一〇月二四日から、被告八ツ田和男にあっては同年九月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決の第一項は、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の主旨

被告らは原告に対し、連帯して一一四九万八二八六円及びこれに対し、被告株式会社アイ・エス・エフ貿易(以下「被告会社」という。)にあっては昭和六二年三月一九日から、被告金沢明彦こと金明彦(以下「被告金沢」という。)にあっては同年同月一一日から、被告小勝明和(以下「被告小勝」という。)にあっては同年一〇月二四日から、被告八ツ田和男(以下「被告八ツ田」という。)にあっては同年九月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する

訴訟費用は原告の負担とする。

第二  請求原因

一  原告は、昭和六一年一〇月一五日ドイツ連邦共和国(以下「ドイツ」という。)に所在するベンツ社の販売代理店サイドラー社から、同国ハンブルグ市に所在するアイ・エス・エフ、ハンドルゲゼルシャフト社(以下「ドイツ社」という。)を代理人として、別紙自動車目録記載の自動車(以下「本件自動車」という。)を代金一一万五五〇〇ドイツマルク(以下「マルク」という。)で買い入れ、同日引渡を受けた。

二  原告は同日、本件自動車の購入費用として、車両価格一一万五五〇〇マルク、陸送及び乙仲代二〇〇マルク、ドイツ社のコミッション一〇〇〇マルク、合計一一万六七〇〇マルク(九一七万〇二八六円)を株式会社三和銀行放出支店からドイツ社の取引銀行であるコメルツ銀行バンズベック支店に送金した。

三  ドイツ社の会計担当者大形孝三は、同日右送金にかかる金員を引き出し、ドイツ社の従業員ラルフ・トイフェルと二人でサイドラー社に行き、本件自動車の引渡を受けた。

そして、大形らは同日本件自動車をハンブルグの保税倉庫に運ぼうとしたが、時間の都合上ドイツ社の倉庫に一時的に保管し、翌一六日保税倉庫に運搬することとした。

四  被告金沢は、同年同月一六日ドイツ社に行き、ドイツ社の倉庫にある本件自動車が原告所有であり、ドイツ社が原告の代理人として本件自動車を購入したことを知るや、被告八ツ田に対し、本件自動車を原告に引き渡さないように指示し、被告小勝に命じ、被告会社からドイツ社に対して本件自動車の代金として一二万マルクを支払ったような内容虚偽の領収書を作成させた。

被告金沢は同月二〇日サイドラー社の原告に対する請求書、輸出証明書、その他の輸出関係書類をトイフェルに命じ、すべて原告から被告会社に書き換えさせた。

以上のように被告金沢は、被告小勝、被告八ツ田と共謀して、内容虚偽の輸出関係書類を作成し、原告所有の本件自動車を横領した。

五  原告は、本件自動車が我が国に輸入されるに際し、昭和六一年一一月一七日、被告会社及び訴外日本郵船株式会社を被申請人として、処分禁止の仮処分決定を得たが、訴外株式会社新和産業の提起した仮処分取消申請により、右仮処分決定は同年一二月二二日取り消され、本件自動車の執行開放がなされ、原告は本件自動車を取り戻すことが不可能となった。

六  原告の損害

被告らの本件不法行為により、原告は本件自動車代金及び諸費用額相当の一一万六七〇〇マルク(九一七万〇二八六円)の損害、本件訴訟に要する弁護士費用一五七万八〇〇〇円、ドイツにおける弁護士費用四〇万円、ドイツとの通信費用三五万円以上合計一一四九万八二八六円の損害を被った。

七  本件自動車は、被告会社の実質的にはドイツにおける支社というべきドイツ社が原告の代理人として売主であるサイドラー社から船積みのために引き取り保管中であったところ、被告会社の代表取締役である被告金沢が、これを原告が購入したものであることを知りながら、その横取りを企てたものであるが、被告会社は当時、自動車の輸入業務を行っていたものであるから、被告金沢の右行為は、外形上被告会社の事業の執行に付いてなされたものということができる。

ドイツでは、国際私法上、法人の存否は法人の所在地の法律によるとの扱いがなされていることから、日本において株式会社として設立登記された被告会社の存在はドイツにおいても認められるところである。

そしてドイツ民法三一条は、社団の理事団、理事又はその他の組織法上の代理人が職務執行についてなした損害賠償義務を発生させる行為によって第三者に加えた損害について当該社団は責任を負う旨規定しているから、被告会社は、同条により、原告の本件損害について賠償責任を負う。

八  よって、原告は被告らに対し、本件不法行為に基づき、右損害金一一四九万八二八六円及びこれに対し被告会社にあっては昭和六二年三月一九日から、被告金沢にあっては同年同月一一日から、被告小勝にあっては同年一〇月二四日から、被告八ツ田にあっては同年九月一七日から(いずれも本件不法行為後で、かつ本件訴状が各被告に送達された日の翌日)支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。

第三  請求原因に対する被告らの認否

一  被告会社、被告金沢

1  請求原因一は否認する。

2  同二は不知。

3  同三は不知。

4  同四は否認する。

ドイツ社はサイドラー社から本件自動車を購入してその所有権を取得し、被告会社がこれをドイツ社から購入したものであって、原告とは何の関わりもない。

5  同五は認める。

6  同六は否認する。

7  同7は争う。

二  被告小勝、被告八ツ田

1  請求原因一は否認する。

2  同二は不知。

3  同三は不知。

4  同四は否認する。

5  同五は認める。

6  同六は否認する。

第四  証拠関係〈省略〉

理由

一〈証拠〉によれば、原告は昭和六一年九月中頃ドイツ社に対し、ベンツを購入したい旨申し込んでいたところ、同社の支配人であった伊藤淳一が同年一〇月一三日原告に対し、本件自動車の売買契約をドイツにおける車両販売業者サイドラー社との間で締結することとなったこと、ドイツ国内における物品売買に対しては、一四パーセントの付加価値税が掛かるが国外への輸出品についてはこれが掛からないことから、右売買契約は、サイドラー社と原告との間の直接の契約とすること、契約成立日はサイドラー社に対し代金を支払った日とすることとし、原告は車両代金一一万五五〇〇マルク、陸送・乙仲代二〇〇マルク、コミッション一〇〇〇マルク合計一一万六七〇〇マルクを支払うものとしたこと、原告は同月一五日三和銀行放出支店に右金額のマルク(九一七万〇二八六円)を払い込んでドイツに所在のコメルツ銀行バンズベック支店におけるドイツ社の口座に送金することを依頼したこと、ドイツ社の従業員大形とラルフトイフェルの二人はサイドラー社に対して自動車代金を支払うためコメルツ銀行バンズベック支店に赴き送金された一一万六五〇〇マルクのうち一一万五五〇〇マルクを引き出したこと、コメルツ銀行バンズベック支店は本店から右振込送金の通知を受けたことから入金記帳に先立って右支払いに応じたこと、大形とトイフェルの二人は直ちにサイドラー社に赴き代金の支払いと引換えに原告の代理人として本件自動車の引渡を受けたこと、そして本件自動車を同日船積みする予定であったところ、時刻が遅くなったため、これを翌日行うこととして、本件自動車は同日はドイツ社の倉庫に置いたこと、以上の各事実が認められる。

被告小勝は、ドイツ国内における本件自動車の取引には付加価値税がかかるところから、便宜輸出先である原告名を利用して売買契約書を作成したが、実際はドイツ社がサイドラー社からの買主である旨供述するが、右供述部分は、前掲証拠並びに原告本人尋問の結果真正に成立したものと認められる〈証拠〉に照らして措信し難い。

〈証拠〉の宛名が被告会社名となっているが、〈証拠〉によれば、被告金沢らが後記のとおり、本件自動車を横取りするために最初原告名となっていたものを被告会社名に書換えさせたものであることが認められるから、採用することができず、〈証拠〉中右認定に反する部分は前掲証拠に照らして措信し難く、他に右認定を左右すべき証拠はない。

ところで本件自動車の売買はドイツ国内においてなされたものであるから、債権契約の面については、法例七条により、適用すべき法律を検討することとなるところ、当事者の意思がいずれの国の法律によるべきか分明でないから行為地法であるドイツ民法によるべく、同法四三三条によれば、当事者間における売買の合意によって売買契約が成立し、売主は買主に目的物を引き渡し且つその所有権を供与すべき義務を負うこととなる。同法一六四条によれば代理人によっても売買契約を締結することができる。右所有権の移転については、物権に関するものとして法例一〇条により目的物の所在地法が適用され、この面についても結局ドイツ法によるべきところ、同法九二九条によれば、所有権移転の効果が発生するためには、所有権移転の合意と目的物の現実の引渡を要する。ただし現実の引渡は所有者から取得者に直接行われる必要はなく、所有者又は取得者の意思に基づく限り、双方とも占有機関もしくは占有媒介者を使用することもできると解せられる。

前記認定の事実及び右ドイツ法によれば、原告はドイツ社を代理人としてサイドラー社との間で本件自動車の売買契約を締結し、本件自動車の現実の引渡を右代理人によって受け、その所有権を取得したものということができる。

二〈証拠〉によれば、

トイフェルは翌一六日早朝に出勤し、本件自動車に輸出のための仮の番号を付け、ドイツ社の入口に本件自動車を移動させて、輸出手続きをするため大形を待っていたところ、大形が被告金沢、同小勝、同八ツ田と共に同社に到着し、被告金沢は大形から本件自動車の輸出手続きの話を聞くや、本件自動車を原告に送ることを禁じ、本件自動車の鍵及び関係書類をトイフェルから取り上げ、その後本件自動車をカールシュタット百貨店の駐車場に移動させたこと、被告金沢は大形やトイフェルに対し本件自動車を被告会社が買い受けた形とすることを要求し、翌一七日には被告金沢は被告八ツ田を通じてトイフェルに対し本件自動車の購入において作成された輸出関係書類の原告名を被告社名に書き換えるように要求し、また困惑する大形をして被告金沢が現金一二万マルクを支払ったような領収書〈証拠〉を作成させ、サイン権を有する被告小勝がその責任を分担する趣旨でこれに受領のサインをし、本件自動車の横取りに加担したこと、トイフェルは一旦被告金沢の要求を拒否したが、同被告の強い要求により、同月二〇日「被告金沢がトイフェルに対し輸出関係書類の原告名義を被告会社名義に書き換えることを要求した。」旨の証明文書を作成してこれに同被告の署名を得、右名義書換えに加担したことについて将来生じうる責任から免れる手段を講じたうえ、やむなくその書換えに応じ、サイドラー社にその名義変更をさせたこと、被告八ツ田は右書類の名義変更その他の事務上の手続きを補助したこと、被告金沢はこのようにして被告会社が本件自動車をドイツ社から購入したように仮装して、これを横取りし、同年一一月一日本件自動車を株式会社新和産業に売り渡したこと、以上の各事実を認めることができる。

〈証拠〉中右認定に反する部分は、措信し難く、他に右認定を左右すべき証拠がない。

そして請求原因五の事実は、当事者間に争いがない。

ところで法例一一条によれば、不法行為によって生ずる債権の成立及び効力はその原因たる事実の発生した地の法律によるべきものであるところ、ドイツ法八二三条は故意又は過失により他人の生命、身体、健康、自由、所有権、又はその他の権利を違法に侵害した者は、その他人に対して、これにより生じた損害の賠償をすべき義務を負い、同法八三〇条は、数人が共同によりなした不法行為により損害を加えたときは、各自その損害につき責を負うべきものであり、教唆者及び幇助者は、共同行為者に準ずるとされているところ、右認定事実によれば、被告金沢が中心となって本件自動車の取込み横取りをし、被告小勝及び被告八ツ田がこれを幇助したものと認められるから、同被告らは共同して右損害を賠償すべきものである。

また原告及び被告金沢の各本人尋問の結果によれば、被告会社はドイツから自動車を輸入し販売することを業として行なっているものであることが認められ、被告金沢の右行為は外形上被告会社の事業の執行についてなされたものということができるところ、ドイツの国際私法上、法人の存否は法人の所在地の法律によるものとされており、日本において株式会社として設立登記された被告会社の存在はドイツにおいても認められ、他方ドイツ民法三一条は、社団は社団の理事団、理事又はその他の組織法上の代理人が職務執行についてなした損害賠償義務を発生させる行為によって第三者に加えた損害について責任を負う旨規定しているから、被告会社も、代表者である被告金沢の業務執行により原告に対し右損害を生じさせたものとして、同条に基づき、原告の被った右損害の賠償責任を負うものといわなければならない。

三損害について

1  本件自動車代金及び諸経費

前記一のとおり、原告は昭和六一年一〇月一五日三和銀行放出支店からコメルツ銀行バンズベック支店におけるドイツ社の口座に本件自動車代金等として九一七万〇二八六円を送金し、その送金手数料として五四〇〇円を支払ったが、被告金沢らの前記二のとおりの横取り転売により、原告は本件自動車の取戻が不可能となり(本件自動車の取戻しが不可能となったことは、当事者間において争いがない。)、同額の損害を被ったことが認められる。右認定を左右すべき証拠はない。

2  ドイツにおける弁護士費用及びドイツとの通信費

〈証拠〉によれば、原告は本件自動車の取戻のために、ドイツの弁護士エバファルドシューマンに法律的諸手段を取ることの委任をし、その弁護士費用として四〇万円を要したことが認められ、右認定を左右すべき証拠がない。そして原告の右支出は被告らの本件行為の結果止むなくされたものと認められるから、これは被告らの本件不法行為と相当因果関係のある損害ということができる。

原告は通信費用として三五万円を要した旨主張するが、これを具体的に認めうべき証拠がない。

3  本件訴訟の弁護士費用

〈証拠〉によれば、原告は本件自動車の取戻のために保全手続き等の措置を執ったが奏効せず、やむなく本件訴訟を提起せざるを得なくなったものであること、その他本件訴訟に顕れた諸般の事情を勘案すると、原告はその負担すべき弁護士費用のうち九〇万円が本件不法行為と相当因果関係のある損害と認める。

四結論

以上によれば、原告の本件請求は、被告らに対し連帯して、本件自動車代金九一七万〇二八六円、その送金手数料五四〇〇円合計九一七万五六八六円の損害金、ドイツ及び我が国における弁護士費用一三〇万円総計一〇四七万五六八六円及びこれに対し本件不法行為後の、被告会社にあっては昭和六二年三月一九日から、被告金沢にあっては同年同月一一日から、被告小勝にあっては同年一〇月二四日から、被告八ツ田にあっては同年九月一七日から(いずれも訴状送達の日の翌日)支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する(原告の仮執行の宣言の申立てについては、訴訟費用の部分についてはその必要がないからこの部分の申立てを却下する。)。

(裁判官小林茂雄)

別紙〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例